ENo.0119　デア

デアという名は2人の母さまの名から1文字ずつ頂いた名だ。1人の母さまはハーピィで、もう1人の母さまはドライアドという種族である。種族の異なる2人からどのようにして私を産んだのかは不思議なのだが、母さま方は教えてはくれなかった。母さま方に聞いた当時の私が子供だったせいかもしれない。「子供というのは愛しあう2人の間で授かるものよ」などとはぐらかされていたし、子供だった私はそれで納得していた。私が大人になる前に、母さま方は息をひきとってしまったため、改めて聞くこともかなわなかった。
母さま方は、私を産んだがために亡くなった。私のような半端ものは、ハーピィの里からも、ドライアドの里からも受け入れられることはなかった。なので、2人の母さまは私を連れて里を離れ、3人で生きる道を選んだ。私が1人でエサを狩れるぐらいになるまでは、3人の生活は上手くいっていたように思う。けれども、元来は群れて生活していた種族なので、たったの3人で生きていくというのは無理な話だったようだ。2人の母さまは次第に疲弊し、病気にかかり、治す手立てもなく亡くなってしまった。
1人ぼっちになってしまった私は、2人の跡を追おうとも考えたが、2人の母さまがもっとも大切にしてくれた愛の結晶 ー 私そのもの ー を絶やしてはいけないという気持ちのほうが強かった。
居場所を転々として、私が十分に大人になった頃、私は自分自身だけで子供が産めることに気がついた。普通の生物は単体での繁殖はできないことは知っていたが、稀に単体繁殖が可能なものもいるらしい。そのようなものを雌雄同体もしくは、雌雄同株と呼称するらしい。
呼び方はともかく、私にとって単体での繁殖が可能なことはたいへんに喜ばしいことだ。私のようなハーピィとドライアドの混合種というのは私以外に見たことも聞いたこともなく、つがいとなる相手を見つけることは諦めていた。もしかするとハーピィ種もしくはドライアド種とはつがいになれる可能性もあるのかもしれないが、私のような半端ものを受け入れられるとは到底思えないし、私もまた受け入れがたいと思った。
私にとって最も恐ろしいことは、母さま方が残した軌跡が途絶えてしまうことだ。生あるものはいずれ死ぬ。私自身、いつ死んでしまうのかわからない。だからこそ、可能な限りたくさん子を産み、ハーピィドライアドという種をこの世に増やさねばならない。