ENo.0017　ルーム・オブ・シーツ

魔王を呼び寄せるための言葉が、リボンのように空中に漂います。
全ての言葉を読み終え、さあ あとはいよいよ魔王を呼ぶだけ。

背負った城のパワーも、自分のパワーも残り十分です！

「よっちゃ！それじゃあはじめるちよ」

「おーーい」

「ん？」

「おーい、待って、待って。その召喚待って〜〜」

地平線の彼方から、誰かが女神に向かって走ってきています。いったい誰なのでしょう？
女神は召喚の儀式を一旦止めて、誰かがたどり着くのを待つことにしました。

５分くらい待つと、ようやく声をかけてきた相手がたどりつきました。

「オメー足おせぇちよ！どんだけ待たせるつもりちか？もっとはよ来っち！」

「ゼェ ヒィ ご、ごめん…ゲフッ」

「で、オメー誰ちか？」

地平線の彼方から走ってきた神は、息を整えると優雅に腰を折りました。

「私は『忍び寄る死の足音』の神です。つい最近、この世界へやってきました」
「本当に、つい最近この世界に来たばかりなんですよ。この前まで他の神様たちに引っ越し蕎麦配ってましたし」
「あ、あなたも神様です？よかったら引っ越し蕎麦どうぞ」

「蕎麦とかいらねぇちから、話の続き言うちよ」

「あっ、そうですか（ｼｭﾝ）…それで、蕎麦を配っている時に耳に挟んだのですが」
「何やら『てぃーこん』？なるものが始まるそうじゃないですか」
「魔王を召喚して、魔王城に籠城して勇者達と戦い 進行をくいとめるっていう…」
「そして、その戦いで得たものを創造主に捧げるとかナントカ」

「おう、それ。あと多分もうてぃーこん始まってるちよ」

「えーーー、本当？うわ、どうしよう」
「いや、実は私。本当につい最近きたばかりで、この間まで引っ越し蕎麦を配っていたので」
「自分の城を持っていなくて」

「ほー」

「あ」
「あの！」
「あなたの城に、私も乗せてくれませんか」

「は！？」

「私は自分の城持ってなくて」
「たとえ魔王を召喚して『てぃーこん』に参加しても勇者と立ち向かえないと思うのです」
「だから」
「私をあなたの城に乗せてくれませんか」
「私も 私の召喚する魔王も仲間になります。軍勢に下ります」
「タダで乗せろとはいいません。掃除、洗濯、料理もしますからっ」

「えっ　えっ」
「ちょ　ちょっと、待っち…」

突然の申し出に、女神はびっくりしてしまいました。
だけど、そこは女神様。ササッと考えをめぐらせます。

「……ふむ」
「いいちよ！」

「本当ですか、やったー」

「ただし、条件があるち！それを耳かっぽちて、よくよく聞いちおくっちよ！」

「はいっ」

「まず！」
「オメーと、オメーが召喚する魔王の受け入れ。これはオッケー。入れてやるち」
「で、条件！」
「まず城の管理はオメーが全部やるちよ、掃除とか掃除とか」

「了解でーす」

「それと！」
「オメーと、オメーの魔王は、わたちの分まで茶葉と魂をあつめてもらうち」

「えっ？」

「言った通りち」
「わたちは今回、魔王を召喚するのやめるち。疲れるし、元気になるの時間かかるし」
「オメーはわたちのかわりに城にくる勇者、全部引き受けるちよ」
「それが条件ち」

「…」
「わかりました」
「それでよければ、城に乗せてください」


ということで。
夕織るツバサの女神は魔王の召喚をすることを止め、
新たに忍び寄る死の足音の神を仲間に加え、彼を配下にすることでてぃーこんに参加することになりました。


「ところで、オメー『忍び寄る死の足音』って神らしーけど、一体なんの神ちか？」
「出来損ないなのはわかっちけど」

忍び寄る死の足音の神が魔王召喚の準備をしている隣で、女神は暇そうに転がる草をつついています。
神は、女神の方へ転がる草をコロコロ吹かしながら答えました。

「私は、死期が近い人しか認知できない神かな」

「それって…えっつまり、死神っじゃねーちか！？」

何が出来損ないだ！と女神は怒りました（彼のことを出来損ないと決めつけたのは、女神なんですけどね）。
でも、神は首を横に振ります。

「ごめん、かっこよく言ったけど ちゃんと言うと」
「生きるか死ぬかの境目にいる人だけが、私の足音を聞けるっていう」

「生殺与奪できるとかそういう力は」

「ないです」

「出来損ないちね」

「でしょ」

そんな他愛ない話をしている間に、魔王召喚の儀式の準備ができたようです。
神は袖を合わせて、ムニャムニャ ニャムムと呪文を唱えています。女神はそれを静かに見守っています。
神の力が徐々に集まり、空気が震えてきます。

「はーーーーっ！！」

ドカーーーン！と神の周囲に雷（のようなもの）が落ちてきました！

「ぬわーーーっち！！」

もくもくと土煙が上がります。神の姿は土煙のせいで見えません。

「…召喚の仕方も、神それぞれなんちねぇ…」

土煙がおさまりました。忍び寄る死の足音の神の召喚は、無事成功したんでしょうか…？

「ハァ……ハァ……どうよ？」

「おっ」

地面に、何か白いものがころがっています。もしかして、魔王でしょうか？
二人の神は、その白いものに近寄ってみました。

「……」

どうやら、それは真っ白なシーツのようです。いえ、正しくはシーツに包まったなにかのようです。

「う、うーん……」

「お、気がついちよ」

「大丈夫？」

「！」

シーツに包まった何かは、目の前の光景にびっくりして縮こまってしまいました。

「こんにちは、はじめまして」
「君はこの世界に、魔王として選ばれやってきたんだよ」
「私たちと一緒に『てぃーこん』をしよう」

「てー…　こん？」
「…おにーちゃ　だあれ？」
「これは　ゆめ？」

どうやら、シーツに包まった子は小さい女の子で、今起きていることを夢だと思っているようです（ま、今はそれでもいいんじゃないでしょうか？）。

「……うん、そう。ここは夢の世界」
「ねえ、君の名前は？」
「私は忍び寄る死の足音の神」
「そっちは………………名前なんだっけ」

「夕織るツバサの女神、ちよ」

「…」
「なまえ、だいじなひとじゃないひとに おしえちゃダメっておとおちゃまが」

「ううん？」
「名前、教えてくれないのか…でも、名前がないのは不便だね」
「じゃあシーツに包まってるからシーツちゃん（仮）ってことで」

「それじゃあ、シーツちゃん」
「今からこの女神様からお城を借りて」
「『てぃーこん』をはじめよう」
「大丈夫、ここは夢の世界だから　思い切り楽しんでね」

「…？？」

「…」


役者はそろったようです。
さあ、楽しいパーティのはじまり 始まり！