ENo.0170　ポラリス

さて、と女は一つ伸びをした。

今回の『世界』は随分と変わり種の様子。
何と言っても自分を『魔王』として呼び出すぐらいなのだから。


「その目的が誕生日会のため、とは……なかなかに壮大な事だ」


悪くはない。
女は低く笑う。

闘争とは常に物騒なものだ。
その理由だって、基本的にはろくでもないものが多い。
それは相手の富がほしいだとか。
或いは邪魔な存在を消し去りたいだとか。
……まあ、挙げ続けても途切れはしないだろう。

が、今回はどうも別の意味で『ろくでもない』様子だ。
誕生日のために茶葉が居る。
だから痩せた土地を豊かにするために勇者を呼ぶ。
そしてその勇者の狂った猛攻を防衛するなり打ち倒すなりしなくてはいけない。
シンプルだがどうにも馬鹿らしい。

が、その馬鹿らしさが小気味よい気もしなくはなかった。


「何にせよ、魔王となったからにはやらねばならん……という事だな」


魔王なんて柄じゃないというのに。
その身に騎士の鎧をまとう女は微苦笑を落として己の居城を見上げた。

やることは山程にある。
忙しくなりそうな気配の中、蝉の声だけが無邪気に元気だった。