ENo.0105　時計塔 [Atelier Clock Wise]

時計塔の朝は遅い。

早起きなのは鐘と一階のカフェテリアだけで、二階の看板が『営業中』に変わるのは太陽が昇ってから何時間か過ぎてからだ。
遅めの朝食のために階段を下りようとしていると、上階から足音が降りてくる。

「ふわー…あ、リヴ、おはよー…
　あさごはん、いっしょに食べるー…？」

眠気からとろんと間延びした声で、二階の少女は、同じ時間に三階から降りてきた少年にぱてぱてと手を振った。

「ボクは食べてもおなか膨れないけどォ…イイよォ？　フィンが食べてるの見るのは、嫌いじゃないし。」

紅い蝶を肩に乗せた少年も、応えるように手をひらひらと振る。

「それにィ、ボクの『ゴハン』は、もう直ぐ自分で来てくれるしィ」
「…リヴ、なんだかわるいお顔してるー…
　おきゃくさんに、いじわるはしちゃ、めー、なの…」

注意らしき言葉を口にするも、朝の眠気には勝てないようで、口元を押さえてむにゃむにゃ言っている。
階段の前でとろんと落ちかけた瞼を見かねて、紅い蝶をつれた少年は、少女の前に右手を出した。

「フィン、転んだら危ないから、手ェ繋ご？」
「んー…」

うとうとした頭のままで、少女は差し出された手を取り、

「あっ手が滑っちゃったァ☆」
「きゃーーーー！？」

階段から聴こえてきた少女の悲鳴に、一階カフェテリアのよく働く給仕は、「朝食のパンケーキはもう焼けてるから、早く降りて来てくれないかなあ」とこっそりため息をついた。