ENo.0002　水底の薔薇の魔王

水音と水の香りに包まれた城の最奥。

泉の奥に、ひとつの彫像……のような人影。
水の流れのなかでも眠り続け、ぴくりとも動かない。

「これが、魔王……」

人影は魔王。
この、【水底の薔薇】と呼称されている魔王。
上から見るとそのように見えるとか、魔王がそのようなものを操るとか諸説ある。

だが、魔王を見つめる人物は、魔王の実態については知らなかった。
何も聞かされてはいないし、声も名前も知らなかった。

ただ、100年に一度、魔王のもとに娘を一人送る風習は生きている。
無論、送られた娘は帰ってこない。
ある時から、"送るのは娘でなくてはならない" と言われるようになったが、その理由も定かではなくなってしまい、ただ風習だけが残っている。

そして、今。

娘が産まれていないタイミングで、風習の時がきてしまった。
しかし何もしないわけにはいかない、万が一にも祟りの類いがあってはいけない、
……結論として、男でもいいから送り込め、
女のフリをしてでも送り込め、という話に落ち着いたらしい。


（魔王と呼ばれるほどの相手ならば、女のフリなんてすぐにでも見破って、その上で祟りでも罰でも当たりそうだが……）

（……まあ、いいか。
良くわからないまま地上で死ぬよりは、
魔王とやらの近くにいたほうがまだ、どうにかなるかもしれないし。）

（今、こうして眠ったまま過ぎてくれればいいのにな。
この魔王様は、この前に魔王や女神たちが一悶着起こしたときも目覚めなかったらしいしな。）

（そのときの流れを軽く耳にしたが、なんかよくわからなかったな……）

「ま、なんとかなるだろ


……違う、なんとかしましょう……」

（女性らしくとか、怠いな）

「やるしか、な……ないですね」