ENo.0041　アデル・エレムルス

夜が明けて、世界は変わった。
それだけが確かなことだ。


目を覚ました、そのときには、暗い部屋の中にいた。
視界も狭く、身体も重い。とはいえ苦しくはなく、痛みもないが、どうも身動きが取りづらい。
さて、どうなっているのか、と横たえていた身体を起こして、まず目にしたのは、武骨な篭手を纏った自らの手だった。

「……おや」

確か、目を閉じる前。夢を見る前には、篭手どころか、手袋もつけたことはなかった。
軽く指を曲げてみる。見た目とは裏腹に、薄い金属で造られてあるようで、手指を動かすに支障はない。
そして、身じろいだ拍子に、何か、金属のようなものが擦れる音。目を体に向ければ、これもまた黒みがかった金属で作られたらしい、禍々しい意匠の装飾物が腕や腰にぐるりと巻きついている。頬にふわふわと触れるのは、ファーのようなもの。これも色を合わせたように、黒い。

「……」

それから、目覚めた瞬間から、胸元がやけに涼しく感じると思っていたが、ファーがついた襟は、ざっくりと人で言うなら鳩尾の辺りまで開いていた。その素肌の部分に触れる感触からして、綿のような素材で出来たローブを着ているらしい。

「ふむ」

そして、先ほどから気になっていた視界の狭さは、目深に被ったフードのせいだった。払いのけるようにして背へ下ろせば、代わりに、色素が抜け落ちたような髪が、さらさらと肩から胸元へ滑り落ちていく。記憶を振り返っても、髪の長さは顎の辺りだったように思うのだが、今は胸のした辺りまで伸びている。
体に起きた変化を一通り確認して、ようやく、周りを見渡した、先で。

「おきた？」
「ん？　ああ、起きた、かな」

黒い、人形のような。小さなひとがたが、こちらを見ていた。顔らしきところにある二つの白い点が目なのだろうか。
彼が、なめらかな人の言葉で、小さなこどものようにたどたどしく言うのに、答えてやれば。

「おきた！　まおうさま、おきた！」

小さな彼は、嬉しそうにそう言った。


まおう、と彼は言った。その意味を知るのは、もう少し後のこと。
そして、魔王として、15日間の生を歩むのは、まだ、先の話。