ENo.0351　サード・ウィンド・ブレード

一人、黙々と傷の手当をしている黒尽くめの男の肩に、ぽん、と手が置かれた。

「よう、エッジ。まーたサイの巻き添えか？　それともまーたやっかみ連中に絡まれたか？　色んな意味で逃げるのが巧いお前さんが怪我するんだから、面倒なヤツ……傷跡から見るに【ミスト・ファング】のヤツにちょっかい出されたんじゃねーの？」

だらしなく帽子を被った中年男に、エッジと呼ばれた男は、はぁ、とため息を返す。

「全く……面倒な事は苦手なんだけどねぇ。その両方が一緒にやってくるなんて、今日は厄日かなぁ」

追加でため息をつきながら、一通りの手当ては終わったのか、エッジは救急箱の蓋を閉じる。

「お前さんも苦労性だよな。サイのヤツ、なかなかまだ馴染まないのか？」

「喧嘩を売る輩が多すぎるんだよ。それを片っ端から受け流さずに受けて立つサイも問題だし。あと僕はファングの７位を取る気はないのに、何でいちいちいちゃもんつけるかなぁ。っていうか１０位以内で何らかしら言ってこないのって、アンタ位じゃないの？　ブレード」

ブレードと呼ばれた男は、にやりと笑うとぽんぽん、とエッジの肩を叩いた。

「俺は俺の実力に自信を持ってるからな。お前さん相手にしても負けはないって承知分さ」

その言葉に、エッジはくすり、と小さく笑う。

「ブレードのそういう所、嫌いじゃないねぇ。僕としても【ウィンド・ブレード】を相手にするのは厄介だし、これ以上、上のランクが欲しいとも思わないから一向に構わないんだけど」

その切り返しにブレードは、にやりと笑った。

「一度【ダーク・エッジ】とやりあうのは結構楽しそうだがなぁ？　何でもうちょい上へ行けるお前さんが８位に甘んじてるのか、ってのが上位連中にゃ脅威だから、ちょっかい出されるんじゃねーの？」

「勘弁して欲しいなぁ。色んな意味で」

エッジは、度数の高そうな眼鏡に手をやって、くい、と上げると、救急箱片手に立ち上がった。

「あんまり怪我して戻ると、フレアが気にするんだよねぇ」

「あぁあのエッジが養い子にしてる可愛い女の子か。ありゃこんな稼業させるのは可哀想なのは分からんでもないな。それにもうちょいしたら美人になるぞ？　俺に息子でもいりゃ、くっつけたい位だね」

「そりゃどうも。でもフレアは並の男に渡す気はないなぁ」

「言うじゃねーか。並の男じゃない俺に、仮に息子が居たら並より上だと思わねーのかよ」

「それもそうかなぁ。でもその折にはよーく調べさせて貰うよ、色々と、ね」

「おお怖い怖い。……で、怪我の手当ては終わったようだが、これからどーすんだ？」

その問いに、エッジは片手の救急箱を掲げて見せて。

「これは組織の備え付けだから、片付けたらもう帰るよ」

「お、俺も用事は終わったから、久々に一杯飲むか？」

「……怪我人に言う台詞じゃないけど、組織内で一杯やろうか、なんて誘うのもアンタ位だし。たまには付き合いますか」

その言葉にブレードは今度はエッジの背中をばしばし、と叩いた。

「俺が付き合ってやってんだぜ？」

と言いながら。

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「……ん」

帽子を顔にかけて地面に転がっていたブレードは、むくりと身体を起こすと、地面に転がった帽子を、だらしなく被りなおしながら。

「なんか懐かしい夢をみてた気がするな。……エッジのヤツ、元気にやってんのかね……ま、今は人様の事気にしてられねーけど」

チンピラ風の青年がこちらへやってくる様子に片手を上げて応じながら。

よく分からない異世界に迷い込んでしまった日々が、どうすれば終わるのか……暗中模索が続くのだった――。