ENo.0197　イデラ

　　魔王になれば　みんなから必要とされますか？

　　　　魔王になれば　私の存在を認めてくれますか？
　
　　　　　　魔王になれば………


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「…難しいね」

古ぼけた書物をぱたり、と閉じた少女はポツリと呟く。
一本に結った葡萄酒色の髪を解き、漆黒の前髪を掻き上げ、溜息を一つ漏らし、身を投げ出す様に寝台に横になる。


「………もっと…簡単だと思ってたのに…」

茶葉を作るのも、魔王を演じるのも。

「ねぇ、お話、聞かせてあげよっか？」

傍らに置かれたお手製の幾多もの人形に言葉を投げる。
当然返事など返ってくるはずがない。
けれど少女は続ける。

「…昔々、小さな村に魔の力を持って生まれた人間の女の子がおりました。
女の子は、忌み子とされ、何かある度に村や、噂を聞いた他の村や国、とにかく皆から蔑まれて生きてきました。
それでもいつか報われる日が来ると、ほんの一握りの希望を胸に女の子は生きてきました。

ある日の事です。
村に領主さまがやってきました。

領主さまは女の子の前へやってくると頭を下げることなく、こう言いました。

"お前には世界の戦を止める力がある"と。

女の子はもちろん、そんな事できないと首を横に振りました。
けれど領主さまは続けます。

"何も前線に立ち戦えというわけではない。難しい書物を読み政を進めろという訳でもない。
簡単な事だ。【魔王】となり、全てのものの共通の敵になってくれればいい"と。

女の子は思いました。
自分が皆から蔑まれているのはいつもの事。それにただ【私は魔王です】って言えばいいだけの事。

蔑まれたままいつか独りで生を終えるなら…
魔王を名乗ればせめて最期はみんなから"平和をありがとう"って、喜んでもらえると。

女の子は笑顔で答えました。
"そんな簡単な事でいいのなら、喜んで私は魔王になりましょう。"
とても、とても嬉しそうに答えました。

……こんな私でも必要としてくれるんだ、って…」

そこまで一気に話すと、少女は前髪と同じ漆黒色の瞳を細めた。

「……でも…難しい、ね」

暫しの沈黙。
突如むくりと起き出し、ぶんぶんと首を横に振る。

「……頑張らなくちゃ。倒される最期の日までちゃんと"魔王"、頑張らなくちゃ」

気合いを一つ入れる様に拳を握り、愛用の三角帽子を被り部屋を出た。


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