ENo.0060　エティ・フォン・ヴァイツェンベルク

エティ「ねえクロ、大丈夫？　ルール覚えられた？　分からないことがあったら聞いてね、それから、えーと、……」
クロ「エティ、ちょっと黙っててください。うるさくて考え事ができねーですよ」

トリノ「じゃあアン、あとはよろしく。分からないことがあれば教えるから。自分の考えたことを、いろいろ試して見るといい」
アン「は、はい……」

◇◆◇

◇◆◇

クローリン「てめぇら、人が働いてる途中にいい度胸じゃねーか」
カリオペイア「おや、これは、ゲームですか？」

◇◆◇

カリオペイア「……アンと、トリノの駒は、黒い犬なのですね。あれが、モーザさまということでしょうか？　では、エティが逆賊ですか？」
エティ「カリオペちゃんやめよう！？　なんかそういう私が勝ちづらくなる発想やめよう！？」

トリノ「ほらエティ、モーザさまダヨー」
エティ「トリノ、怒るわよ！？」

クローリン「なんだよ、随分と目つきのわりぃモーザだな」
カリオペイア「ですがクローリン、この、王冠をかぶったモーザさまは、なかなかどうして、風格があって、モーザさまらしいように思います」

クロ「ほいチェックですよ。そこのポーン、こっちによこしやがれです」
アン「えー、と、とられちゃった……」
エティ「ひょわああああああ！？　モーザさまの駒がー！？」
クロ「うっせぇですよ！　エティ、あんたどっちの味方なんですか！？」

◇◆◇

モーザ「随分と賑やかだと思っていたが、なにか、催しかね？」
クローリン「よお、モーザ、てめぇもこっちこいよ」

エティ「ああああすみませんモーザさま、違うんです、あの、その」
カリオペイア「モーザさま、モーザさま、ご覧ください。いま、モーザさまと、エティが戦っているんですよ」
クロ「すっげぇ語弊のある表現しやがりますね……」
エティ「ち、違うんですモーザさまあああああああ……！！」
アン「え、エティ、泣かないで……！」

◇◆◇

　七人もいると少し狭く感じた部屋も、ひとりでいるとなんだか、淋しいくらい広い気がします。
　あの時のゲームは結局、クロが勝ちました。
　私が指南役だったのに、ぜんぜん、役に立たなくて悪いことをしてしまったなと、未だに申し訳ない気持ちになります。
　でも、みんなには言えなかったけど、私はああいう戦術を競うゲームはぜんぜん、得意ではありません。
　モーザさまの参謀の癖に、ぜんぜんのだめだめです。
　だから口を出さない方がきっと、良かったのかな、と誰にも言えない言い訳を一人で考えてしまいます。

　あの時と同じように駒を並べてみます。
　誰もいないから、私ひとりだけです。
　当然だけど、別に面白くもないし、楽しいこともありません。
　少しくらい、あの時の気持ちに戻れるのかもと思いましたが、ぜんぜん、そんなことはありませんでした。
　部屋の中には誰もいないままで、モーザさまもいないままです。
　懐かしくはなるけれど、嬉しいとか、楽しいとか、そういう気持ちは戻って来ません。

　七人いた頃は、もっと狭い部屋のように思っていました。
　でも、気が付いたらこの部屋も、修道会領も、なんだか私が知らない土地のように広い場所になってしまった気がします。

　修道会領は広すぎて、モーザさまのいない修道会領は、なんだか別の場所のようです。